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【特別編】「和晒を広めたい」。繊維加工場が立ち上げたブランド「さささ」成功の裏にあった明日からできる”3つの生存戦略”

2026/02/26

こんにちは、bridge 山本です。

日々、多くの製造業の経営者様とお話しする中で、最も多く聞く悩みの一つがこれです。

「これからも会社を継続するために、今何をするべきなのか?」


大量生産・薄利多売のモデルから脱却したい。

そのための選択肢の一つとして、BtoC市場向けの”自社ブランド””自社商品”への挑戦があります。

しかし、いざ自社ブランドを立ち上げようとすると、多くの現場で「自分たちだけでやって素人っぽくなる」か、「コンサルに丸投げして思ったものと違う」などになりがちです。
また、本業との合間に行う「片手間」で進めて、結局頓挫した、という方もいらっしゃるのではないでしょうか?


今回は、大阪・堺で「和晒(わざらし)」という伝統産業を営む株式会社武田晒工場 の事例を、通常よりボリュームを拡大してお届けします。

お話を伺ったのは、武田社長、武田専務、そして専務のお姉様であり現在ブランドの担当である麻衣子さんです。

同社が立ち上げたブランド「さささ」が成功した理由。
それは、よくある「コンサルへの丸投げ」でも、本業の合間にやる「片手間」でもありませんでした。
専門家と線引きをしっかりと行い対等に意見をぶつけ合う「共創」。
そして、社長が現場を守り、専務がブランドに専念するという「覚悟」。
何よりも、そのすべての原動力となった「和晒という文化を広めたい」という純粋で強烈な想いがあったからです。


是非、同社の言葉に耳を傾けてみてください。

すべての始まりは「和晒を広めたい」という想いから



※武田晒工場さんの自社ブランド「さささ」の商品パッケージ(HPより)


ブランド作りにおいて最も大切なのは、「どんな商品を作るか(What)」そして「誰とつくるか(Who)」…当然、これらも大事ですが、それ以上に大切なことがあります。

それは「なぜ、それをやるのか(Why)」という、揺るぎない目的です。


同社の原点には、過去の苦い経験と、そこから研ぎ澄まされた「想い」がありました。


(以下、インタビューより)

山本:もともと「さささ」を始めるきっかけは何だったんですか?


武田社長:正確に言うと、「さささ」の前にもう一つ、私が立ち上げた「天使のころも」というベビー肌着のブランドがあったんです。

商品自体は良かったんですが、なかなか(消費者に)受け入れられなくて 。


武田専務:その立て直しも含めて僕がバトンを受け取ったんですが、当時の悩みは「和晒」という言葉が全く認知されていないことでした。

価格が、西松屋さんより高くて、ファミリアさんよりは安いという「中間層」だったんですが、なぜその価格なのか?という理由が「和晒だから」としか言えなかった。

「和晒って何?」という人に、良さをうまく言語化できず、ただ「いいものなんです」としか伝えられなかったんです 。


山本:商品は良いのに、その価値が伝わらないもどかしさですね。


武田専務:
もっと言うと、僕の原体験があるんです。

小学校の頃、友達に親の仕事を「さらし屋」と言っても通じなくて、「何それ?」なんて言われたりして(笑)。
それがすごく寂しかった 。
家では当たり前に「和晒」があるのに、外では誰も知らない。
だから、根底には
「和晒という文化そのものを、もっと多くの人に知ってもらいたい」という強い想いがありました 。


※同社工場内の風景


武田専務:だから、コンサルタントの方と話す中で「ベビー服ではなく、和晒そのものに特化した商品を作ろう」という方向に舵を切ったんです。
和晒に特化しないと、「天使のころも」も輝かないんじゃないかと 。



【山本の視点 ①】

お話を伺って、ここが全ての起点なのだとハッとさせられました。

「儲かるから」「売れそうだから」という理由ももちろん大切ですが、それ以上に「和晒を知ってほしい」という純粋な目的があったこと。
自社の技術の良さを一番知っているのは自分たちだからこそ、「どうすればもっと知ってもらえるのか?」と、自分たちの奥底にある想いを深掘りすることが、ブレない軸になるのだと思います。


その想いがあったからこそ、「ベビー服」という形にこだわらず、「日常の道具」として和晒を提案する柔軟な発想(ピボット)が生まれたのではないでしょうか?

「何を作るか」に迷ったときは、一度立ち止まって「なぜ作りたいのか」という原体験を振り返ってみる。
それが、状況を変える一つのヒントになる気がしています 。




「丸投げ」しない。会議室の会話から生まれた「さささ」

「和晒を広める」という目的が決まった時、同社は自分たちだけでやるのではなく、外部のプロ(コンサルタント・デザイナー)と組むことを選びました。
しかし、数いる専門家の中から、どうやって自社にぴったりのパートナーを見つけたのでしょうか?

 

そこには、自治体の支援と「直感」がありました。

そして出会った後も、「お金を払って終わり」の丸投げではなく、自分たちの想いを実現するための「共創」を徹底したのです。



(以下、インタビューより)

山本:そもそも、伴走されている今のコンサルタントの方とはどのように出会ったのですか?


武田専務:堺市さんが販路開拓の支援などにすごく協力的で、我々のような業態に対してセミナーをやっていただいてたんです。

そこに講師として来ていたのが、今のコンサルタントの方でした。


山本:たくさんの専門家がいる中で、なぜその方にお願いしようと思ったんですか?


武田専務:僕の話を聞いてもらう中で、何かちょっとシンパシーというか。「この人なら」という直感を感じたのが大きいと思います

それで、うちの商品に携わってほしいなと思い、(コンサルタントとして)入っていただいたんです。


山本:なるほど、実績だけでなく「直感的にうまくやれそうか」という相性も結構大事ですね。

いざコンサルタントが入ると、「お金払ったからあとはよろしく」と丸投げになりがちだと思うんですが、御社はどうでしたか?


武田麻衣子さん:結構、言いますよ(笑)。

「進捗が遅いな」と思ったら「ちょっと遅くないですか?」って言ったり。


武田専務:
契約上はお金を払う側ですけど、実際は「対等」ですね。
「一緒にこの商品(「さささ」)を作ったんでしょ」という感覚です。

※「さささ」の使用風景(HPより)

山本:その関係性があったからこそ生まれたアイデアはありますか?


武田専務:ブランド名の「さささ」ですね。

これも一方的に提案されたわけじゃなくて、みんなで会議室で話している時に決まったんです。

「和晒ってどう使う?」「昔は10メートルの反巻を各家庭で切って使っていたよね」などという話から、「さっと取って、さっと使える和晒」がいいよね、みたいな雑談をしていて。

武田専務:その会話の中で、「さっと取って、さっと使えるから、じゃあ『さささ』でいきましょうか」って。

やっぱり、(ネーミングやアイデアは)会話をしないと生まれないですね。


山本:完全にチームですね。


武田専務:結局、僕らが「和晒」のプロだとしても、「見せ方」に関しては素人なんです。
ロゴや包装紙一つとっても、僕らなら1、2パターンしか出ないけど、プロは何十パターンも出して、そこに意味を持たせてくれる。
自分一人で(勉強して)やるのもいいでしょうけど、やっぱり誰か専門的な知識を持った人は必要なんじゃないかなと思うんです。
だから、「自分たちのプロ領域(製造・知識)」「相手のプロ領域(デザイン・見せ方)」をしっかりと線引きすることが大事だと思います。



【山本の視点②】


相性の良いパートナーと出会うには?

自社の社員だけで完結することができるなら、もちろんそれが良いと思います。
しかし、どの会社もそれが可能な訳ではありません。
自社だけ、もしくは一人でやるには限界があります。
自社以外と一緒に共創するという選択肢を持つことも大切だと考えさせられました。

それなら「餅は餅屋」
得意な人(企業)にお願いするというのも時には必要な選択肢ではないでしょうか?

では、どんなパートナーを選ぶのか?
自社に合うパートナーと出会うには、待っているだけでなく、自ら外の世界(セミナーなど)に触れてみることも一つの手です。
確かに、有名な先生であるかどうかや、実績も気になりますが、「この人となら一緒に走れそう」というシンパシー(直感)を信じてみるのも大切だと感じます。

そして、パートナーが決まったら「あとはいい感じにして」と丸投げしてお任せするのではなく、自分たちの想い(素材)を素直にぶつけ、相手のクリエイティブ(見せ方)と掛け合わせていく。
この地道な「対話」の時間こそが、想いを形にするための近道なのかもしれません。
武田専務の「会話しないと生まれない」という言葉には、AIやシステムには代われない、人間同士の「共創」の温かさとクリエイティビティが詰まっていると感じました。



「片手間」では無理。専任になれた「社内のトレードオフ」

そして、私が今回のインタビューで最も納得させられた、読者の皆様に伝えたいのが「リソース(時間)」の話です。


新しいことを始める時、多くの企業が「通常業務の空き時間」(本業の片手間)でやろうとして失敗します。

しかし、武田晒工場さんは違いました。



(以下、インタビューより)

山本:新しいことをやる時って、どうしても既存業務が忙しくて「片手間」になりがちじゃないですか。

そのあたりはどう工夫されたんですか?


武田専務:確かに、みなさん社長が主軸となって動く場合が多々あると思うんですよ。

現場にもいないといけないのでバランスが難しいですよね。

ただうちの場合は、社長に現場をお願いしていたんです。


※工場内の加工風景

山本:なるほど、社長が現場を引き受けてくれた。


武田専務:だから僕は「さささ」に100(%のリソースを割く)っていう形で動けたんです。

片手間では、やっぱり中途半端になってうまくいかなかったと思います。

どっぷり入り込んでやらないと、難しいですね。


武田麻衣子さん:私は私で、もともと別の会社で働いていたんですけど、途中で「経理やれ」って呼び戻されて(笑)。

そこからいつの間にか「さささ」も手伝うことになって 。


山本:お姉様である麻衣子さんも加わって、役割分担ができあがりましたね。


武田麻衣子さん:私たち素人はSNSのセンスもないし、写真も撮れない。

だからそこはプロにお任せして、その浮いた時間で違うことをする

お金とのバランスもありますけど、無理なところは任せて、自分たちは自分たちのやるべきことに集中する方がいい 。


【山本の視点③】

何か新しいことを始めるとき、私たちはつい「今の仕事の合間に(片手間で)」と考えてしまいがちです。

しかし、武田晒工場様は違いました。

社長が現場をしっかり守り、専務が未来(ブランド)をつくる。

そしてお姉様がそれを引き継いでいく。

この「何かを得るために、何かを任せる(手放す)」というトレードオフの決断があったからこそ、100%の熱量を注げる「本気のブランド」が育ったのだと思います。


「忙しいからできない」と諦める前に、社内でどう役割を分担できるか、一度チームで話し合ってみると、新しい景色が見えてくるかもしれません 。


明日からできる「生存戦略」

武田晒工場様の事例は、「現状を変えたいけれど、どうすれば…」と悩む私たちの背中を優しく、力強く押してくれます。

特別な技術ももちろん素晴らしいですが、それ以上に、自らの想いに正直になり、周りと丁寧に関わっていく姿勢に学ぶべきことが多いと感じました。


もし、あなたが今「何か新しいことを始めたい」と思っているなら、次のような視点を持ってみるのはいかがでしょうか?


  1. 「Why(なぜやるのか)」を自分に問い直してみる
    「売上を上げるため」のもう一歩奥にある、「なぜそれを届けたいのか?」という想い。
    それが見つかると、共感してくれる仲間が自然と集まり、パートナーとの対話もより深いものになっていくはずです 。そして商品やブランドにも一貫性が生まれます。

  2. 「対等なパートナー」と、とことん話してみる
    外部にお願いするときは「丸投げ」ではなく、同じ目線で議論し、自分たちに足りない部分を「補い合う」関係をつくれると理想的ですね。
    遠慮せず、恥ずかしがらず、お互いの意見をぶつけ合うことで、想像以上のシナジーが生まれると思います 。


  3. 未来のために「リソース」を確保する決断をする
    「空いた時間でやろう」という考えは少しお休みして、思い切って既存の業務を誰かに任せてみる。
    未来への種まきのために、今の時間をどう投資するか(トレードオフ)を考えてみる。
    もちろん誰かに任せることが難しいという企業が大半だと思います。
    100%のリソースを割くのは難しくても、覚悟を決めて時間を確保することが、前へ進む大きな力になります。
    もちろん、100%リソースを割いても成功が約束されている訳ではありません。
    しかし100%リソースを割かなければ成功は難しいのかもしれません。

 

自社だけですべてを完璧にこなす必要はないんです。

自分たちの強みを大切に磨きながら、足りない部分は信頼できる誰かと手を取り合う。

そんな「共創」の輪が広がっていけば、これからの製造業はもっと面白く、もっと温かいものになっていくと私は信じています 。

 

(株)武田晒工場の皆様、本当に学びのあるお話しありがとうございました。

 

さささ HP:https://sa-sa-sa-store.com/

天使のころも HP:https://www.tenshi-no-koromo.jp/index.html

(株)武田晒工場HP:https://takeda-sarashi.jp/index.html

 

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